『やぶれかぶれ』 本宮ひろ志 その5


『やぶれかぶれ』   本宮ひろ志 その5 
全3巻  初版1983年1月 ジャンプコミックス 集英社


これは大変貴重な本である
なんと、本宮ひろ志が、参院選出馬!?
これは、その模様をレポートした、マンガドキュメンタリーである!


漫画家が、政治に進出した例は、私の知る限り、無い
この本宮ひろ志は、大真面目に参院選挙に出馬の意思を固め
集英社の編集にかけあい
自分を主人公にして、大真面目に選挙活動の模様を漫画で、
それも天下の大雑誌「週間少年ジャンプ」に連載したのだ


そもそもの動機は、
政治と言うものは、民衆、特に若者にはわかりにくい
ならば、自分がそれを漫画に描いて分かりやすくし
政治に感心を持たせようと言う
壮大な思い付きからはじまった


ドキュメンタリーであるから、実名がバンバン出てくる
第一、本宮ひろ志自身が主人公である
奥さんである元漫画家の【もりたじゅん】や
アシも、前川K三、宮下ひろし、高橋よしひろ金井たつお等が出てきて
大真面目で選挙を手伝うし
江川卓松山千春とゴルフしてるし
みんな実名で似顔絵入りで漫画に出ている


でも、なんといってもすごいのは、当時の現役政治家
それも各党の党首や重鎮クラスと実際に会っていること
【官直人】(若い!)や社民連の【田英夫】代表、新自由クラブの【田川誠一】代表や
公明党の【竹入義勝】委員長、社会党の【飛鳥田】委員長
そして何より

当時ロッキード事件の真っ最中であった
田中角栄


それぞれ大真面目に、漫画家【本宮ひろ志】と対談し
またそれを大真面目に実名入りで漫画に描いている!


とにかく、すべてにおいて本宮マンガに前例が無いことばかり
主人公が自分自身ということも
ドキュメンタリーであると言うことも
ネームが死ぬほど多いということも
エッチシーン・暴力シーンがないということも


マンガ界においても、おそらく前例はない
当時の政界でしのぎを削っていた、現役の各党首に
一介の漫画家が面会を申し込み
各党のポジションや考え方を公明正大に掲載し
編集者達も、人気が出ないだろうということを予想しながら
そのとおり人気が出なくて10回で打ち切りになるまで
ナンバーワン漫画誌である天下の大ジャンプに連載を決断したこと


結局は、本宮ひろ志は、出馬を断念するのだが
いや、それにしても、この試み、心意気は賞賛されるべきものである
しかし、これらのことは
本宮ひろ志がやったから出来たのであって
他の誰かでは、計画そのものが頓挫していたことであろう


とにかく、スゴイ
世間に恥をさらし、馬鹿にされながらも
やれるだけのことをやり、それを作品に遺した
この足跡は偉大である


本宮ひろ志のこの動きは、25年早かった
先の政権選択選挙において立候補していたならば
大真面目に、日本初の、漫画家代議士が誕生していたことであろう


非常に手に入りにくいと思われるこの本
読んでも、面白いとはいえないだろうこの本


読む機会に恵まれたなら、あなたは幸せです